【実習】

実験T

[目的] 

無機定性分析の基礎とも言える炎色反応を体験し、理解を深める

[炎色反応の原理] 

アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素の塩や化合物をバーナーの酸化炎の中に入れると気化し分解されて原子状態となり、さらに炎のエネルギーによって電子はより外側の軌道に励起される。この状態はとても不安定なのですぐに別の軌道(またはもとの軌道)に落ちてくる。この時エネルギーとして電磁波つまり光(ここでは可視光線)が放出される。このプロセスをものすごい速さで繰り返すことにより反応が知覚される。

[装置および操作法]

薬品:NaClKClLi2CO3CaCl2BaCl2CuSO4、未知検体(1,2,3)、塩酸

器具:バーナー、試験管、白金線、駒込ピペット、ホールダー、時計皿、クロスパーテル

操作法:

1)白金線の先端5mmを濃塩酸中でよく洗い、精製水でそそぐ。

2)白金線の先端をバーナーの酸化炎に入れて炎の着色を確認し、炎に色がつくときは、色がつかなくなるまで1)の操作を繰り返す。

3)清浄にした白金線の先端5mmを試料液中に浸した後、白金線を水平に保ちつつ酸化炎で熱して炎色を観察する。また、試料が固体の場合は、塩酸少量で粥状とし白金線の先端約5mmの部分につけ、同様に酸化炎で熱し炎色を観察する。

[注意すべき事項]

・白金線はよく焼く、そうしないと炎色の観察が適切に行えない。

・換気に気をつける

[実験内容と結果]

 

試料の様子

炎色時間

肉眼

コバルトガラス

NaCl

白色粒子

長い

オレンジ

見えない

KCl

白色粒子

一瞬

Li2CO3

白色、細かい

10sほど

深紅

CaCl2

白色パウダー状

一瞬

橙赤

白緑

BaCl2

白色平板状粒子

20sほど

黄緑

白緑

CuSO4

青色、多少大きな結晶

一瞬

青緑

未知検体@

無色透明

長い

オレンジ

一瞬赤

未知検体A

無色透明

10sほど

未知検体B

無色透明

多少長い

白緑

*ここで肉眼、コバルトガラスとは、炎色反応を観察した状態、使用した器具を示す

前頁の表より

未知検体@:肉眼による観察では、長い時間オレンジ色を呈し、コバルトガラスを通して観察すると一瞬だけ赤色を呈したことから判断して、未知検体@はNaKを含む塩または化合物の水溶液と考えられる。

未知検体A:肉眼による観察では、赤色を呈し、コバルトガラスを通して観察しても赤色を呈したことから判断して、未知検体AはLiを含む塩または化合物の水溶液と考えられる。

未知検体B:肉眼による観察では、多少長い時間緑色を呈し、コバルトガラスを通した観察では白緑色を呈したことから判断して、未知検体BはBaを含む塩または化合物の水溶液と考えられる。

[考察]

アルカリ金属元素リチウム、ナトリウム、カリウムの炎色は、深紅、オレンジ、紫となった。これは連続スペクトルの並び順とも合致する。今回はこのことについて考察する。

リチウム、ナトリウム、カリウムの色の並びには秩序が認められる。それは連続スペクトルで見た場合にみごとに波長の長いものから順に並んでいる。ここでテキストの表から波長を確認したのだが、そうともいえなかった。でも諦められずに、インターネットの炎色反応のサイトを探ったところ、都合のいい数字を見つけたので以下このサイトの著作を持つ木原寛氏、今福京子氏のデーターから考察を行う。

 

波長(nm)

Li

610.4  670.8

Na

589.0  589.6

K

404.4  766.5  769.9

以下は太字の数字つまり一番エネルギーの高い波長について考察する。ちなみになぜひとつの原子が様々な波長を出すかというと、電磁波の波長はどのエネルギー順位の電子がどのエネルギー順位の軌道まで励起したかにより当然違ったり、ひとつの励起した電子がもとの軌道に戻るときひとつ以上のエネルギーつまり電磁波を発生することなども考えられる。)

なぜリチウム、ナトリウム、カリウムと周期が増すほど炎色反応で高いエネルギーの電磁波を発生させたかというと、それは最外殻電子の位置に関係があるのではないか。同一族において、周期が増すほど最外殻電子は原子核より外側に位置する。すると、電子と原子核(陽子)を結びつけている電気的な結びつきも、周期が増すほど小さくなる。ここで炎というエネルギーの塊と出会うことにより、当然閉殻していない電子はより励起しやすい状態となる。ここで電子と原子核との電気的結びつきが問題となる。原子核と結びつきが強いほどその分励起する軌道のエネルギー順位は低い、それに対して原子核と結びつきが弱い電子ほど、より高いエネルギー順位の軌道へと励起する。これによって、電子が落ちてきたとき、放出されるエネルギーは周期が小さいほど小さく、周期が大きいほど大きいということになる。これによってリチウム、ナトリウム、カリウムは連続スペクトルの並び順とも合致したと考えられる。なぜほかの波長の色が顕著に出現しなかったかというと、アルカリ金属元素特有の性質ゆえではないか。最外核に電子はひとつ。そのひとつさえどこかえいけば、より安定する。炎色反応でも選択的に最外核電子が励起されたと考えられる。

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