(Rec Assey)
1.Rec+株とはどのような株か
野生株で、DNAの組替え修復機構をもつ株
2.Rec−株とはどのような株か
変異株で、DNAの組替え修復機構をもたない株
3.観察結果
4.それぞれの生育阻止域の長さを記し、その結果から、遺伝子損傷作用のある薬物、致死作用のある薬物を判定せよ
薬物 |
生育阻止域(mm) | |
Rec+ |
Rec- | |
蒸留水 (55mol/L) |
0 |
0 |
塩化ベンザルコニウム (2%) |
6 |
13 |
硫酸カナマイシン (400μg/mL) |
7 |
13 |
マイトマイシン(5μg/mL) |
10 |
13 |
亜硝酸ナトリウム(400mg/mL) |
0 |
10 |
上図より
遺伝子損傷作用のある薬物:硫酸カナマイシン、マイトマイシンC、亜硝酸ナトリウム
致死作用のある薬物:塩化ベンザルコニウム、硫酸カナマイシン、マイトマイシンC
ただし塩化ベンザルコニウムは薬物の置く位置がRec+側に偏っていたため、遺伝子損傷作用の判定はできなかった。
5.各薬物の作用機序を調べ、実験結果を考察しなさい
・塩化ベンザルコニウム:逆性石鹸であるこの薬物の作用機序は、膜透過障害である。
実験結果は致死作用を示した。これは薬物によって、細胞膜が変質したことにより、菌が適当な濃度で死滅したためであると考えられる。
・硫酸カナマイシン:作用機序はリボソーム30s、50sサブユニットに結合しコドンの誤読miscordingを誘発することによるタンパク質の合成阻害で、殺菌的である。
実験結果から致死作用が認められた。アミノグリコシド系抗生物質は殺菌的な作用があり、今回使用した菌はタンパク質の合成阻害にあい、恒常性の維持ができなくなったため適当な濃度で死滅したものと考えられる。
・マイトマイシンC:作用機序は2本鎖DNA中で隣接する塩基との間に架橋cross-linkを形成することによるDNA複製阻害である。濃度が濃いとき致死作用もしめす。
実験結果から遺伝子損傷作用、致死作用が認められた。薬物から近いところにある濃度の濃いところで致死作用、薄いところで遺伝子損傷作用を発揮したものと考えられる。
・亜硝酸ナトリウム:発がん性物質の疑いが有る。
実験結果は亜硝酸ナトリウムに遺伝子損傷作用を疑わせるものとなった。亜硝酸ナトリウムは食品添加物として広く使用されてはいるたが、今後更なる実験の蓄積により有害性が明確となる可能性がある。今のところ動物実験では悪い影響がみられていないのが、使用中止を喚起するネックとなっている。
(Ames test)
1.Salmonella typhimuriumu
TA98とはどのような菌株か
ヒスチジン合成酵素遺伝子にフレームシフト型の突然変異を起こしてヒスチジン要求株となった株
2.Salmonella typhimuriumu
TA100とはどのような菌株か
ヒスチジン合成酵素遺伝子に塩基対置換型の突然変異を起こしてヒスチジン要求株となった株
3.用いた培地中に少量のヒスチジンを加えるのはなぜか
少量のヒスチジンは、菌が数回分裂できるように加える。そのあいだに復帰突然変異を起こしヒスチジン合成ができるようになればコロニーを形成するし、突然変異を起こさずヒスチジン要求株のままではやがて死滅する。
4.この培地で増殖できる菌株はどのような株か
生育に必要なアミノ酸を自ら生合成できる菌株
5.計数結果
|
Salmonella
typhimurium |
0(mg/mL) |
0.1(mg/mL) |
1(mg/mL) |
SA |
TA
98 |
7 |
26 |
22 |
TA
100 |
14 |
3180 |
5214 | |
NF |
TA
98 |
6 |
2257 |
3445 |
TA
100 |
55 |
61 |
77 |
6.薬物の濃度が0mg/mLのときにもコロニーが認められたが、これはどのような菌か
自然突然変異を起こし、偶然にも復帰突然変異となり復帰体となりヒスチジンを合成できるようになった菌。
7.2−ニトロフルオレンによりコロニー数が濃度依存的に増加したのはどの菌株か
フレームシフト型の突然変異を起こしたSalmonella typhimurium TA98株
8.アジ化ナトリウムによりコロニー数が濃度依存的に増加したのはどの菌株か
塩基対置換型の突然変異を起こしたSalmonella typhimurium TA100株
9.5.6の結果から各薬物は塩基対置換型、フレームシフト型どちらの型の点突然変異を誘起したのか根拠を示して判定しなさい
アジ化ナトリウム:TA98株では復帰突然変異を起こさず、TA100株では復帰突然変異を起こし濃度依存的にコロニーが増加したので、アジ化ナトリウムは塩基対置換型の突然変異を誘起する薬物といえる。
2-ニトロフルオレイン:TA100株では復帰突然変異を起こさず、TA98株では復帰突然変異を起こし濃度依存的にコロニーが増加したので、2-ニトロフルオレインはフレームシフト型の突然変異を誘起する薬物といえる。
1.この実験に用いた培地について説明しなさい
ミューラーヒントン改良培地(1000ml当たり)
ウシ心筋浸出液 250ml ・・・・・エキス(広範囲の菌の発育が見られる)
カザミノ酸 15g ・・・・・窒素原(カゼインを酸で加水分解して遊離アミノ酸としたもの)
L−トリプトファン 0.05g・・・・・窒素原(カゼインを酸で加水分解するとトリプトファンは分解されてしまうので)
ブドウ糖 2g ・・・・・炭素原
可溶性デンプン 1.5g ・・・・・炭素原
寒天 15g
pH 7.4±0.1
※窒素原にペプトンをつかわずカザミノ酸をつかうのは、ペプトンに含まれるパラアミノ安息香酸がサルファ剤の抗菌作用を妨げるからである。
2.用いた菌について説明しなさい
Proteus
vulgaris:グラム陰性桿菌で通性嫌気性の腸内細菌科に属する菌。変形菌。
Staphylococcus
aureus:グラム陽性球菌で通性嫌気性に属する菌。黄色ブドウ球菌。
3.結果(スケッチ、計測値)を記し、各菌に対する各薬物の感受性について判定せよ
スケッチ
|
阻止円(mm) |
|
|
Proteus
vulgaris |
感受性の判定 |
PC |
0 |
効かない |
KM |
27 |
≧18 感受性 |
EM |
16 |
効かない |
TC |
27 |
≧19 感受性 |
CP |
33 |
≧18 感受性 |
NA |
24 |
≧19 感受性 |
|
Staphylococcus
aureus |
感受性の判定 |
PC |
38 |
≧29 感受性 |
KM |
23 |
≧18 感受性 |
EM |
16 |
14〜22 中間 |
TC |
22 |
≧19 感受性 |
CP |
22 |
≧18 感受性 |
NA |
17 |
効かない |
※抗菌スペクトルからEM、PCはProteus
vulgaris、NAはstaphylococcus aureusに効かない。
4.各薬物の抗菌スペクトルを調べ、実験結果を考察しなさい
抗菌スペクトル
PC:グラム陽性菌、グラム陰性球菌、放線菌、レプトスピラ
KM:グラム陽性菌(レンサ球菌、嫌気性菌は除く)、グラム陰性菌、抗酸菌、放線菌、レプトスピラ
EM:広範囲性。グラム陽性菌、グラム陰性球菌、マイコプラズマ、梅毒トレポネーマ、クラミジア
TC:広範囲性。グラム陽性・陰性菌、レプトスピラ、リケッチア、マイコプラズマ、クラミジア、放線菌、抗酸菌
CP:広範囲性。グラム陽性・陰性菌、レプトスピラ、リケッチア、クラミジア(特に赤痢菌、サルモネラ菌などのグラム陰性桿菌や発疹チフス・ツツガムシなどのリケッチアに対して強い作用)
NA:グラム陰性桿菌
実験結果
PC:グラム陽性球菌である黄色ブドウ球菌には感受性を示し、グラム陰性桿菌である変形菌には感受性を示さなかった。これは抗菌スペクトルとも合致する。ここから黄色ブドウ球菌が耐性菌でないこと判断される。
KM:グラム陽性球菌である黄色ブドウ球菌、グラム陰性桿菌である変形菌の両者に感受性を示した。これは抗菌スペクトルとも合致する。ここから黄色ブドウ球菌や変形菌が耐性菌でないことが判断される。
EM:グラム陽性球菌である黄色ブドウ球菌には中間の感受性を示し、グラム陰性桿菌である変形菌には感受性を示さなかった。抗菌スペクトルから判断して黄色ブドウ球菌は感受性を示すはずであるが阻止円は大きくなかった。ディスクの置き方に問題がある可能性も考えられる。
TC:グラム陽性球菌である黄色ブドウ球菌、グラム陰性桿菌である変形菌の両者に感受性を示した。これは抗菌スペクトルとも合致する。ここから黄色ブドウ球菌や変形菌が耐性菌でないことが判断される。
CP:グラム陽性球菌である黄色ブドウ球菌、グラム陰性桿菌である変形菌の両者に感受性を示した。これは抗菌スペクトルとも合致する。ここから黄色ブドウ球菌や変形菌が耐性菌でないことが判断される。
NA:グラム陽性球菌である黄色ブドウ球菌には感受性を示さず、グラム陰性桿菌である変形菌には感受性を示した。これは抗菌スペクトルとも合致する。ここから変形菌は耐性菌でないことが判断される。
5.用いた各菌が患者から分離された病原菌であると仮定して、下に示す患者の治療薬として選択する薬物を、優先順位の高いものから並べなさい。また、その根拠を説明しなさい。(ただし、用いられないものについてはその旨を記しなさい)
@
患者がアンピシリンでアレルギーを起こしたことがある場合
A
患者に腎機能障害がある場合
B
患者が妊婦である場合
まずS.aureusはNA、P.vulgarisはPC、EMに感受性が無いので判断材料から消去する。
選択する薬物は、菌が同定されているため抗菌スペクトルの広いものを避け(菌交代症、耐性菌対策)、感受性のよいもの、副作用のない、少ない、弱いものを優先する。
@
S.aureus:優先順位EM>KM>TC>CP
患者がアンピシリンでアレルギーを起こしているのでPCは使えない。
抗菌スペクトルが広範囲性のTCは副作用の問題があるのに加え、今回菌が同定されているため優先順位を低くした(菌交代症、耐性菌対策)。CPは、副作用が重篤なため(再生不良性貧血)最終手段とする。EMとKMのどちらを優先するかであるが、どちらも感受性はあるのだが(今回の結果はKMよりもEMの方がより感受性がある)より副作用の少ないKMを優先した。
P.vulgaris:優先順位KM>NA>TC>CP
抗菌スペクトルが広範囲性のTCは副作用の問題があるのに加え、今回菌が同定されているため優先順位を低くした(菌交代症、耐性菌対策)。CPは、副作用が重篤なため(再生不良性貧血)最終手段とする。KMとNAのどちらを優先するかであるが、今回の結果より阻止円のより大きなKMを優先した。
A
S.aureus:優先順位EM>PC>TC>CP
患者が腎障害をもつのでアミノグリコシド系のKMは使えない。腎排泄であるPCは使用には注意が必要である。抗菌スペクトルが広範囲性のTCは副作用の問題があるのに加え、今回菌が同定されているため優先順位を低くした(菌交代症、耐性菌対策)。CPは、副作用が重篤なため(再生不良性貧血)最終手段とする。よって、副作用がより少なく感受性を示すEMを、本来S.aureusの第一選択役であるPCよりも優先した。
P.vulgaris:優先順位NA>TC>CP
PC、EMが効かず、アミノグリコシド系のKMが使えないとなると残るのはTC、CP、NAとなる。NAよりもTC、CPの方がより感受性がいいのだが、僕は副作用の問題を最優先するのでより副作用の少ないNAを優先した。抗菌スペクトルが広範囲性のTCは副作用の問題があるのに加え、今回菌が同定されているため優先順位を低くした(菌交代症、耐性菌対策)。CPは、副作用が重篤なため(再生不良性貧血)最終手段とする。
B
S.aureus:優先順位PC>EM
妊婦さんへ使える薬はほんのわずかである。KM、TC、CPは妊婦さんに禁忌である。残る選択肢はPCとEMだがここは第一選択薬であり、より感受性の強いPCを優先した。
P.vulgaris: NAを用いる
KM、TC、CP、NAは妊婦さんに禁忌である。(キノロン系のNAはまだ安全性がわかっていないため禁忌となる)。PC、EMは効かないので残る選択肢はない。ここにある薬を使わないという選択肢をとるべきだが、あえて選ぶとするなら安全性がわかっていないがNAを選択する。念を押すようだが、これはあくまでこの選択肢から選ばなければならない場合の時である。